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Intermediate Adjudication
2013年7月25日
文責:加藤 彰
0. 目次
- 1. はじめに
- 2. 総論1: ARPとは何か?-ジャッジには「裁量」がある
- 3. 総論2: Oral Feedbackの仕方 -ディベーターの視点を
- 4. 各論1: メタディベートってそもそも何か?
- 5. 各論2: What is New?
- 6. 各論3: Role Fulfillment, Dynamics, Technicality, Consistency等をどう考えるか
- 7. 各論4:その他
- 8. おわりに
「ジャッジに関してはある程度分かってきたけど、ジャッジブレイクを目指したい!」
最近はこういう人が増えてきました。Adjudication Core制度もすっかり定着してジャッジブレイクが導入されていない大会の方が珍しくなってきました。競技である以上、ジャッジブレイクや、GFジャッジ、ジャッジアワードを目指すのは当然でしょう。僕は、そんな人たちを手助けできれば良いなと思いこのレジュメを書いています。
冒頭の、「ある程度分かっている」というのは、BP Novice 2011 Adjudicationのレジュメやレクチャーの内容は理解しているレベルを想定しています。もしまだ見たことが無い場合は是非そちらを先に参照してください。
BP Novice 2011 Adjudication
https://sites.google.com/site/bpnovice2011website/resources
[PDF] http://www.jpdu.org/wp-content/uploads/2013/06/BPNovice2011Adjudication.pdf
2. 総論1: ARPとは何か?-ジャッジには「裁量」がある。
ジャッジというのはAverage Reasonable Person(ARP)であれと良く言われます。最近ですと、Average Intelligent Voterという言い方もされていますが実態は何を示すのでしょうか。「ラウンドに対して公平、自分のバイアスや嗜好を取り除く、論理的」こういったイメージが多くの人によって共有されていると思います。基本的にはこれで正しいです。
そして、多くの大学においては「ディベートに介入しないように!」と口を酸っぱくして教えられていると思います。ですが、難しいのは、ARPはディベートに過度に介入することはご法度なのですが、必要な介入もあるというところです。「介入」という言葉がよくないのでここでは「裁量」とでも呼びます。
ではどのような裁量がジャッジに与えられているのでしょうか。それは、ラウンドで起こったことを尊重しつつ、適宜モーションや一般感覚に照らして判断を行うことです。当たり前に聞こえるかもしれませんが、多くの「イラジャ」と呼ばれる人はこの絶妙なバランス感覚を失い、どれかに問題があることが多いです。なので、かなり詳しく説明したいと思います。
以下の視点は、順不同であり人によって発想方法が違います。しかし、おそらく「良いジャッジ」と言われている人は全部カバーしているでしょう。
(1) 出た分析は、相手とmutually exclusiveな話で、モーションの肯定・否定に繋がっているか?
まず大前提として、ディベートとはモーションの肯定・否定を行う競技です。したがって、全ての分析は、「モーションをとる・とらない理由」をしっかりと示している必要があります。そして、ディベートには相手がいます。したがって、相手がagreeしてくるような話をしても意味がありません。(いわゆる、コンセンサスの説明ですね。)
例えばですが、THBT Western European countries should teach an overwhelmingly negative version of their imperial histories in schools.というモーションにおいて、Govが「ヨーロッパは過去にcolonizeした」「教育は、子供に国として重要なことを教えるものだ」という話をしたとしましょう。Oppからしてみたら、どっちも否定しない(non-contentious)な内容ですね。ヨーロッパの植民地支配にしろ、教育の考え方にしろOppはむしろ賛成するでしょう。(現状でも、植民地支配に関する教育はなされていますし。)ディベートにおいて争点になるのは”overwhelmingly negative version”であるべきか否かという話でしょう。したがって、(Oppの対応にもよりますが)Govがそういった議論を出しOppが直接的に反論しなかったといってGovが即勝つ理由にはなりません。
また、THW privatize water in developing countries.というモーションにおいて、Govがいくら「水は大事、なぜなら命にかかわるから」という話をしたところでOppはそれを否定する義務はありません。「水は重要でない」という話はできないのは当たり前ですから。「なぜ民営化しないといけないのか」という話が出て、はじめてモーションを肯定する話になりうるので、気をつけましょう。
ただ、難しいのは万が一そこがディベートにおいて議論になってしまった場合です。そういった場合はケースバイケースで対応せざるを得ないというのがジャッジの頭を悩ませるところです。しかし、重要なのはモーションの肯定・否定に関係ある話をしているのか?していないのか?という点を意識しながらジャッジするところにあります。
(2) その分析は、論理的にどの程度前提から結論まで証明しているか?
説明の深さとして、いわゆる「メカニズム」「重要性」がどれくらいの丁寧具合(多角的視点、ユニークネス、インセンティブの変化、イラスト等)で説明されているかを見る必要があります。
では、特定の分析がとりあえずmutually exclusiveでモーションの肯定に関係ありそうだとしましょう。果たして、その分析は本当に論理的なのでしょうか。
これは、どの程度ディベートの中で重要な議論になるかどうかという指標において役立つからです。アサーションしかないいいアイディアは、やっぱり取れないというのは分かりますね。逆にA→B→C→Dのように丁寧に説明されているほうが分かりやすいでしょう。しかし、こういったとる・とれないだけではなく、相対的にどうかという話にも繋がってきます。(ここは後述します。)
なお、重要なのは「時間」ではなく「質」で判断するという視点です。例えばですが、よくジャッジでありがちなのが「6分すぎて説明していたのであまり取れませんでした」というような説明方法ですが、「1分しかない=説明できていない」という等式は成り立ちません。1分しか説明していないため、相対的に説明されていないことや、さらに深める余地があったことは事実でしょう。しかし、分かりやすい話だとか、メカニズムは以前のアーギュメントで説明されておりインパクトのつけたしとなる話だとか、場合にもよりますが、1分でも十分考慮できる話としてチームの評価に大きくかかわることがあります。
(3) ラウンドはどのようなClashだったのか?
ラウンドは基本的にIssue-baseをベースに見ることが合理的だと思いますが、(ここの説明は他の資料に譲ります)その際、どのようなClashだったのかはどのように見極めるのでしょうか。
Clashというのは説明がしづらいのですが、和訳すると「争点」となりますね。僕なりの理解では、「特定の指標の下、考えるべきこと」になります。そして具体的には特定の疑問文の形になるかと思います。暗に多くのジャッジが既にやっていることですが、「Principleで見た時にどちらが優勢なのか?」「環境は良くなるのか、悪くなるのか?」のようなものになるかと思います。難しいのはどのような指標を用いるかということなのですが、これに対する明瞭な答えは残念ながらありません。したがって、ここではどういったClashがありうるのかという指標を紹介したいと思います。
いくつかの指標があります。
まずは、ラウンドにおいて普通に整理された内容をClashとして参考にするということです。これはAsian Style/Australs Styleにおいて非常に有益になります。これは、Whip/ReplyがClashを提示してくれるからです。基本的にここを参考にしてあげるのは素直でしょう。しかし、留意する必要があるのは特定のClash作りだと有利・不利が生じることが大きいということです。例えばですが、明らかにそういうバーデンでみたらこっちが勝てなくね?みたいなClash作りをされたりだとか、Clashになっていないのを無理やりClashにしていたりとか、そういうことを当然ディベーターがしてくるからです。これはBPのWhipをみれば顕著でしょう。BPはClosingは当然Closingに有利なWhipをします。Openingには時間をかけない(例えば、シドニー大学のSteve HindはOpeningをほんとにちょびっとしかしゃべりません)ことが顕著ですね。これはBPでは特にありますが、Asianでも似たようなことはありえますので注意しましょう。
次に考えられるのは、とりあえず困った時のPrinciple, Practicalクラッシュです。よく多くのジャッジがテンプレート的にPrinciple/Practicalでクラッシュをつくります。僕はこれを「Principle/Practical Clash病」と呼んでいます。別にそういうラウンドだったらいいのですが、あくまでPrinciple/Practicalは便宜的な概念にかすぎず、PrincipleとPracticalはそもそも分離できないという考え方もあります。(両者の関係性については、3つくらい説があるのですが、ここでは省略します。)具体的には例えば、PrincipleとPracticalがかなり密接につながっていた場合どうするのでしょうか?こういうときにこの分け方はあまり適さなかったりします。
最後に考えられるのは、ラウンドで起こったことを自分なりにClashを作り直す作業です。例えば、EnvironmentのClashがここで、EconomyのClashがここで、のような感じでしょう。これは柔軟なClashをつくれるという点でPrinciple/Practical Clash病よりは良い感じもしますが、人によっては介入が多く見られてしまいます。突拍子も無いClashをつくられるとディベーターはびっくりですよね。また、バイアスに基づいてClashをつくってる可能性もあります。そう考えると最初の指標である、ラウンドで起こったことに忠実になる形の方がいいんじゃないかという話になってしまいます。
では、どうすればいいのでしょうか。個人的には「ラウンドで起こったことを参考にしつつ、自分なりのClashをつくること」に落ち着きます。ここで重要になるのは、自分なりのクラッシュを提示した場合、「なぜそのクラッシュに妥当性があるのか」という説明になります。ここでは、ラウンドにおけるコンセンサスやモーションの肯定・否定、論理性などを基づいて説明することになります。
例えばですが、いわゆるParallel Debateが起こったとしましょう。例えば、aidにX(active participation of women, democracy, increasing environmental standard等、たくさんありますね!)というconditionをつける系のモーションで、govは「aidをacceptしたらこんないいことが起きる」、Oppは「aidをrejectしたら人が死んで可愛そう!」のような話をしてくるわけですよね。そしてお互いeven ifで相手のパラダイムにエンゲージせず、Govは「いやaidはacceptされて・・・」Oppは「いやaidはacceptされずに・・・」と主張し続けるわけです。ジャッジからすると頭を抱えるのですが、これはどうすればいいのでしょうか。
ここでGov Whip/ReplyのClashが「1.Principle of aid 2. Benefit」で、1はほぼアサーション、2は前述したようなもの。Opp Whip/Replyもそのような感じだったとしたら、どうしましょうか。(あまり起きないと思ったあなた、相当起きます。断言しましょう。)これだと、ディベーターのClashも、Principle/Practicalも役立ちません。
ここはもちろんディベートによりますが、僕は3つを見て考えると思います。(1)どちらのパラダイムの方が起きやすいのか(つまり、aidはacceptされるのか否か) (2)Govのパラダイムだとどうなるのか(aidがacceptされたパラダイム) (3)Oppのパラダイムだとどうなるのか(aidがrejectされたパラダイム)です。もし(1)で、どちらかのパラダイムが明らかに起こりやすいという説明がなされていたら、そちらに軍配が傾くかもしれません。なぜなら、もう一方のパラダイムの前提が証明されていないからです。逆に、(1)がどっこいどっこいだった場合は、(2)、(3)の説明の深さで決めるかもしれません。もしくは、(2)のインパクトと(3)のインパクトを比較するかもしれません。どちらにせよ、これはある程度公平でかつ論理的な見方ではあるはずです。(もちろん他の見方もあると思いますし、ラウンドに大きく依存するので一つの考え方として受け取ってください。)
とりあえず、結論としてClashの導き方は複数あり、なぜそのClashが合理的なのかという説明責任がジャッジには多少なりとも課されていることを理解しましょう。その手がかりとして、ディベーターの説明や論理構造、一般感覚を用いることになります。(2)の分析の深さの吟味に関する項目でも述べましたが、ロジックの多角的視点や、ユニークネス、Case Studyなども本当に同列なのでしょうか?それはしっかり吟味しましょう。
(4) 各Clashはどのような結論になったのか?
では、各Clashの優劣はどのようにつけるのでしょうか。
よくジャッジが行うのが「反論がされたかどうか」というものです。これは分かりやすく、ディベーターも納得しやすい反面、反論のバーデンを重くしすぎる可能性もあります。要は、過去に前述したようにそこまで重要なじゃない話やコンセンサスの話に反論がなかったところで、別にClashとしてそこまで優劣を決めないからです。しかし、一定の合理性はあるでしょう。
次にジャッジがよくするのは「とりあえずtieにすること」です。分析がきてまあ水掛けだったよねという場合です。tieにすることは時と場合において必要でしょうが、そう簡単にtieばっかりにはなりません。
(5) Clash間の優劣が異なるとして、どのように結論を出すのか?
例えば、PrincipleはGov、PracticalはOppとしましょう。この場合どうするのでしょうか。
正直言ってケースバイケースで判断せざるを得ないという結論には至ります。モーションにおいてどちらが大事だったのか、等ですね。そこでモーションからどの程度直截的に導かれる話なのかだとか、お互いがどれくらい重要視していたのか等を見て判断を下さざるを得ません。ここでも、(3)で述べたように結局のところ「合理的な説明」がされれば良いのです。なぜ特定のissueを優先したのかという理由付けを説明できればいいでしょう。
例えばですが、environment vs. economyのディベートになったとして、environmentはgov、economyはoppがとったとしましょう。その際どうすれば良いのでしょうか。
難しいのですが、ここでジャッジとしては「どちらが比較ようとしていたか」だとか、「インパクトが結局どっちのほうが大きかったか」のような説明に頼らざるを得ません。そこで主観は極力排除しながらも、最終的に主観による裁量も必要になってくることは否めないでしょう。
(6) 確認はしっかりしましょう
ラウンドが終わった直後にVoteを出すのはかっこいいというイメージもありますし、しっかりと吟味ができているのならいいのですが、それにしてもきちんと確認はしましょう。大抵のジャッジはちゃんとダブルチェックまではいかなくても最低限のチェックをしていないことが多いです。何のためにノートをとるかといえば、確認するためです。ラウンドが終わった直後の印象もある程度重要なファクターですが、しっかりとノートは見返して見ましょう。
そこで重要なのは「本当にこのDecisionでいいのだろうか?」という視点です。相手に入れるとしたらどのようなdecisionになるのかと考えつつ、それに自分の頭の中で反論できればより良いでしょう。(これを、メタディベートと僕は呼んでいます。)これを考えることでより説得的なReason for Decisionになるので、確認作業は怠らないようにしましょう。
3. 総論2: Oral Feedbackの仕方 –ディベーターの視点を
さて、重要なのはここです。というのも、いかに論理的・合理的に勝敗を導いたとしても説明が伝わらなかったら意味がありません。いいアイディアがあっても伝わらなかったら負けるディベーターのような運命を辿ることになるのですから。
誤解を招く表現かもしれませんが、ハッキリ言いましょう。いわゆる「オーソリ」じゃない人は残念ながら特にFeedbackをがんばる必要性があります。正直言うと、「ああ、あの人だから・・・」という理由でディベーターは高い点をつけたりすることがあります。僕はこれは非合理的で馬鹿げていると思いますが、人は傾向として、過去の経歴がすごい(もしくはすごそう)場合は信じやすい傾向があります。これは、しっかりとした心理学的検証もなされている残念な事実です。テレビのコメンテーターやCMがとりあえず肩書きはしっかりしているところはこれが理由です。適当な人が言うよりも、「XX教授が」とか「YY医師が」とかいうと、急にクレディビリティがあがるんです。例えばですが、「ある50才の男性の意見は・・・」といった場合と、「20年間民事訴訟やADRに関して研究をされたケンブリッジ大学の教授の意見は・・・」でしたら、明らかに後者の方が説得力を持ちそうだと感じやすいでしょう。(余談ですが、したがってディベーターはオーソリは一回切り離し、しっかりとクリティカルにその人のそのラウンドにおけるフィードバックを吟味する必要があるのは明らかですね。これは、ディベーター側の過失でしょうし。)
以下のことに留意すると、Feedbackの質はあがるはずです。
(1) ディベーターで学んだ考え方の応用
個人的に残念なのは、ディベーターとして学んだ様々なマナーをここで生かさない人が多いことです。例えばナンバリングだとか、AREAだとか、アイコンタクト等です。これらの技術はそもそも「人を説得する上で有用な技術」なので、この考え方はしっかりジャッジでも応用しましょう。特に、ナンバリングとAREAは多くの人が行わない傾向があるので気をつけましょう。
また、これは賛否両論かもしれませんがある程度毅然な態度をとることも必要だと思います。自信なさそうに説明されても、特に負けたほうは納得しづらいですし。傲慢はもちろんいけませんが、堂々と落ち着いて話すことは説得力をあげることは理解しておきましょう。
(2) ディベーターの視点に立って考える
ディベーターはジャッジを説得、ジャッジはディベーターを説得する構図があると考えると、当然ディベーターの視点にたって考えることが重要になってきます。特に、負けたほうのチームも納得するような話し方は不可欠でしょう。単純に「反論しないしアーギュメントないしまじ最悪だったわー」というような説明のしかたをする人はさすがにあまりいないと思いますが、それに準ずる形の説明をしている人も結構いることは否めません。「この話し方は、果たして自分が言われたらどう思うんだ?」という視点はかならず持ちましょう。「この視点は良かったが、このように反論されており」など、言い回しはしっかりと考えましょう。(ここに関しては、BP Novice 2011のレジュメでも、ジャッジの5原則やフィードバックの3原則等で言及しているので、そちらも改めて参照してください。)
また、よく言われることなのでそこまで強調しませんが、「負けたチームの成仏」を念頭に起きましょう。勝ったチームは多少穴があっても「まあ、勝ったしいっか」と思いやすいのですが、特に負けたチームは結構萎えるわけです。ブレイクを逃す可能性だってありますし、それまで練習をたくさんたくさん積み重ねてきたわけですから。
(3) 常に比較を行うこと
重要なのは、「相対的」にみれているかどうかです。(2)とも関連するのですが、やはりディベーターが納得するのは相対的な議論です。要は、「説明していない!反論していない!」のような説明方法は一方的すぎるわけです。あと、誰もがディベーターなら感じますがちょっといらっとくるか、なえますよね。
仮に「説明していない」論でいく場合は、そこで必要なのは「XXの点をGovは説明していないのに対して」「この点に関してはGovはX→Yまでは説明しました。これはOppも同様でA→Bまで説明しています。さらにOppは一歩踏み込んで→Cまで説明しているのに対して……」のように、一方的に責めないことです。片方が説明できていないところを相手側は説明しているということをしっかり明示する必要があります。細かいテクニックとしては「Xと説明したのに対して、」「Yと説明していたGovと比べ、」のように比較している言葉を使うようにすると、かならず比較するようになると思いますしディベーターの納得度もあがるはずです。
また、よく言われる説明方法ですが、「片方が失敗していても、もう一方がさらに失敗していたら、前者が勝つ」のは真理でしょう。なので、「比較しているのか?」と自分に問いかけながら、フィードバックを行いましょう。
(4) ジャッジの裁量の部分に関しては、丁寧に説明すること
要は、なぜそういうClashになったのか、そのClashでなぜ特定のサイドが上回ったのか、なぜそのような比較をしたのか等ジャッジの裁量の部分はかなり多いです。重要なのは「なぜそのような結論に至ったのか」という前提が抜けているとディベーターは納得しづらいというところです。当たり前ですよね。前提を共有していなければ話はかみ合わないので。したがって、共有が一番しづらいところである「ジャッジの裁量」に関しては丁寧な説明を心がけましょう。
メタディベートというのは、ディベートに関するディベートです。具体的には、前述しているようにモーションの肯定・否定につながっているのか、どれくらい説得力があるのかというのを吟味する作業です。そしてそれを踏まえた上で、「では、特定のサイドはなぜ勝ったのか?」というのをどっちにも入れる理由を考えて吟味する作業です。
特に、ジャッジは独りよがりになりがちです。印象できめてるかもしれませんし、どこかで自分の好みが入っているかもしれません。特定の分析に大きく感動したり、その分析を待っていたりして飛びついてしまったりします。そういったものに対するストッパーとして作用するのがメタディベートなのです。
“New”という概念は、AsianにおけるDeputy/Whip、BPにおけるClosingにおいて重要になります。要はそのスピーカー、サイドがディベートに貢献しているかどうかという指標であるからです。では、具体的には何がnewなのでしょうか?ここで重要なのはNew MatterとNew Mannerという考え方です。
New Matterというのは、新しいreasoning、example(Case Study)、イラストなどです。Openingがアサーションをいっていたからといって、そのアイディアをClosingが伸ばせないわけではありません。BP Noviceの時にも書きましたが、Extensionは古典的なArgument(SQ, AP, Impact)の型を用いる必要が無く、特定のMechanism, Uniqueness, Impactなどもnewです。
そして、New Mannerというのが(僕の造語なのですが)「新しい魅せ方」です。あの有名なSharmilaもNew PackagingはExtensionになりうると説明しています。もちろん、ただのRepackagingは評価があがりません。海外でも「ただの焼き増し」とされれば、Newとはとられませんし、ある程度いいPackagingで話すことは準備時間が長い後のスピーカーであれば当たり前でもあります。しかし、場合に応じては他の視点からの分析でパッケージしなおすことや、イラスト、また「悪く・良く魅せる」ことができていればNew Mannerとして評価されるべきです。
では、具体的にNew Mannerとは何なのでしょうか。正直いってここはある程度感覚に頼るところも必要ではあると思います。例えばですが、Openingが淡々と事実を述べていたのに比べて、特定のイラストで「かわいそうだと思った」というのはなかなか説明が難しいですが、事実としてディベートの説得度をあげているわけでNew Mannerとなりえます。他にあるのは、Openingがぱらぱらと出していた内容をしっかりと整理して分かりやすく説明するのもNew Mannerとなりえます。
もちろん、重要なのはNewだからといって重要とは限らないという点です。しかし、それがモーションの肯定・否定という観点から説得度を増す内容であり、ディベートに新しい角度・魅せ方を導入していればそれはディベートを発展していると言う点で評価されるべきです。
なお、この考えにおいて注意点が2つあります。
第1に、New Matter/New Mannerというのは峻別しづらいものです。そもそも、僕はMatter/Mannerは便宜的な分類方法にしかすぎないと思っていますので、仕方ないのですが。例えばかっこいいword choiceによって心情に訴えてきた内容はNew MatterなのかNew Mannerなのか選別がしづらいですね。この概念の重要性というのは、Matterだけにとらわれすぎず、魅せ方もしっかりと考慮するべきという視点を提供するところにあります。
第2に、あくまでディベートは内容が重視されるというのは多くのディベート界においてコンセンサスであるため、もちろん内容(New Matter)をしっかりと吟味しましょう。特にBPは「アイディアによってディベートを活性化する」ことが根底にあるので、気をつけましょう。例えばですが、僕がOOにいて、COにAteneoがいたことがあったのですが、COは確かにRepackageはよかったものの、マターはOOから出ていたとしてTateに勝ちをもらったことがあります。結局はMatterを重視すると言うのは当然であり、僕がここでNew Mannerという考えを説明したのは、あくまで「大幅なMannerの軽視」には気をつけるべきという警鐘をならすためです。
ところで、結局Closingがどうだったのか?と考える際のコツとして「Closingがいなかったとしたらディベートはどうなっていたのだろう?」と仮想的に考えてみることをおすすめしています。ClosingはArgumentの数ではOpeningを上回ることは非常に困難なので(7分と14分ですので……)Extensionの「質」がより重視されます。この「質」というのは、既に前述したようにモーションの肯定・否定につながっているのか、だとか、相手の前提を実はすごくきっているんじゃないか等ケースバイケースで考えてみましょう。
6. 各論3: Role Fulfillment, Dynamics, Technicality, Consistency等をどう考えるか
これらの概念は近年浸透してきていますが、これらをディベートの中にどう位置づけるか、はかなり難しいところがあります。というのも、どれくらい重きを置くのかというのは人によって大幅に好みが分かれるからです。
例えば、ダイナミクスをとってみても“Dynamics can be a reason for win/loss”と「一つの合理的な指標派」と主張する人もいれば、「どうしても他の要因が思いつかない場合は」という「最後の手段派」もいれば、「一切考慮しない派」もいるというのが実感です。どのように考慮すればいいのでしょうか。
結論として、僕は「全体的な考慮をした後で、指標の重きの置き方は人によって異なってよい」という考え方をとっています。即ち、おそらく問題なのはこういった諸概念をさっさと最初から切り捨てるのは問題な気がします。同じことは、実はIssue-baseの考え方にも言えて、Roleを重視しすぎるあまりIssue-baseな考え方を無視することも問題です。したがって、ここではいくつかの考え方を紹介します。例えばSharmilaのブリーフィングの中に「Role Fulfillments do matter」と書かれていたり、初代UADCのTJのブリーフィングの中に「Technicality alone does not decide the debate」と書かれているなど、とりあえず共通するのはこういった諸概念は考慮する必要はあるが、そのバランスが難しいというところでしょう。
巷でよく言われるのは、「ディベートの説得力にどう寄与したかで考える」(説得性理論)という考え方です。すなわち、これらは単体で勝ち負けを左右するのではなく、それらによってどれほど説得力が低下したかによって判断するというものです。例えば、Consistencyを例にとってみると一方のサイドでcharacterizationがコントラしている場合、それによってどちらなのか分からなくなったため相対的に説得力が低下するというものです。この理論でいうと、Role Fulfillment、Dynamics等でも「それによって説得力が低下したか否か」という基準で判断するというものです。
僕個人としては、概ね説得性理論に同意しているのですが、それに加えこれらの概念は「ディベートの公平性を担保するためにある」(公平性理論)と考えています。単純なIssue-baseで考えた際著しい不公平であるという合理的な理由がある際、公平性の観点からこれららの概念を導入するという視点です。
例えば、Technicalityを考えると、OGとCOの比較等で非常に有用であり、OGの話がCOにつぶされたとしましょう。しかし、OGはプレパ時間が15分として短いのに対してCOはそれに35分以上準備期間があるわけです。また、その気になればCOはOGからPOIをとらなくてもよく、OGに反論の機会が十分に提供されていない構造を考えれば、単純なissue-baseで比較すると可愛そうである可能性があります。したがって、場合によってはOG>COということもありえていいはずです。このような考え方は、「説得性理論」からだけは導かれないのではないでしょうか。
ただ、公平性理論は非常に簡単に飛びつきやすい論理です。したがって、きちんと今回のディベートにおいて「公平性」という観点を導入していいのかを判断しないと、例えば上記の例ではCOを軽視しすぎるという危険性を孕んでいます。
では、この上記の理論2つに共通しているものは何なのでしょうか。おそらく、これらの概念をただ機械的に持ち出して説明しないところに意義があるはずです。「とりあえずRole Fulfillmentでこのチームは落ちた」という機械的適用ではなく、それによって「なぜ勝ち・負けになったのか」という理由を提供しているのがこれら2つの理論の良いところでしょう。結局のところ、ジャッジする際にこれらの概念を用いることは必要な時もあります。その際、なぜそれで勝ち・負けにつながったのかしっかりと説明することを意識しましょう。個人的な印象ですが、あまり納得ができないReason for Decisionの共通点として「Xのロールが……」というだけでとりあえず機械的に適用し、他の概念の考慮があまりなされていないまま勝ち・負けをだすというものです。
なお、この2理論の名称は僕がこの執筆のためにつけたものであり、あくまで便宜的なものであることを断っておきます。
ここでは、その他ざっくりとした内容をいくつか箇条書きで述べておきます。
・スピーチのどの場面でいった内容もしっかりとりましょう。イントロをとらない人とかもよくいますが、イントロの内容で相手を消している場合もあります。
・スピーチの型にこだわりすぎないようにしましょう。スピーチのスタイルは人それぞれであり、モーションの肯定・否定につながってさえいればどのようなスタイルでも可能です。反論と立論を混ぜるだとか、最後に反論するだとか、Argumentは必ずしもTriple A, AREAにそっていないだとか、色々なスタイルに寛容になりましょう。
・スピーチ中に過度に頷いたり首をかしげたりすることは絶対にやめてください。昔NEAOのAdjudication Guidelineでもありましたが、それは特定のチームを有利・不利にしています。できるだけラウンド中はずっと公平にポーカーフェイスでいることが推奨されてます。ジョークで笑うくらいはいいと思いますが、ジャッジの行動によってどちらかを不利・有利にするような行為は第三者としてふさわしくありません。
・Speaker Scoreはきちんとジャッジガイドラインやジャッジテストを参考につけてください。Rangeが広い場合は、広く使わないと逆に不公平になります。
さて、色々新しい内容を盛り込んだのですがいかがでしたか?ジャッジの裁量という論理は特に今までなかなか議論されていなかったので新鮮に感じた人もいるかもしれません。一気に色々書いたので消化できていない方もいらっしゃると思います。最初はそれでも大丈夫です。徐々に慣れていけるはずです。どんなジャッジも最初はイラジャのはずです。(笑)重要なのは、自分の癖がどのようなものなのか、自分のジャッジに何が足りなかったりするのか等を色々なジャッジとラウンドをみたり、ディベーターにフィードバックを求めたりしていく作業です。そうです、基本的にはディベーターとやっていることはあまり変わらないかもしれないですね。ジャッジも練習です。そして、ディベーターと同様ジャッジも必ず上手くなります。
この資料を参考に、1人でも多くの人がジャッジとして活躍できることを期待しています!
東京大学 公共政策大学院1年 加藤彰